CPAP療法の開始 さて、睡眠時無呼吸症候群と診断がくだったからには、治療がはじまります。 治療といっても、残念ながら、薬で根本的に治すと言うことはできません。 現在、睡眠時無呼吸症候群の治療の第一選択枝として広く行われているのがCPAPです。 診断の項で使用した、マスクをつけて寝るというものです。 私も、一晩寝ただけでもその劇的な効果に驚いた物です。 この2回目の入院のあとの診察で、このCPAPを常時家で使うことになったわけです。 CPAP Continuous Positive Airway Pressure シーパップと普通言われているようです は持続的陽圧呼吸と訳します。 ブラスチックのマスクから鼻にポンプからの空気が常に送り続けられます。 私のような閉塞性というタイプの睡眠時無呼吸症候群に圧倒的な効果をもつということでした。 実際に家で使っていますが、邪魔になるほどの大きさでもありませんし、機械音もほとんどしません。 いびきはこれをつけているとほぼなくなりますので、ベッドメイトの家内の評判はすこぶるよいようです。 いくつか種類があるようですが、私が使っているのは帝人のスリープメイトというものです。 輸入品のようですね。 日本製で、もっといいものができそうなものですが。 気になる費用ですが、健康保険が効きます。 月々5000円くらいですが、月1回かならず、通院はしなければなりません。 まあ睡眠時無呼吸症候群になるようなタイプの私のような人間は肥満であったり、高血圧であったりしますので、健康診断のつもりで月1回は病院に行くという習慣にしておくのもいいかなと思います。 ただ、保険が効くのはAHI 無呼吸低呼吸指数。 私は70近くありました が20以上の睡眠時無呼吸症候群患者のみのようです。 まあ20以下だったらそもそもそれほど問題がないでしょう。 購入することもできるようですが、30万円近くするそうですし、専門家の調整がいるので、やはり保険をつかって、医師の指導の下に使うというのが正しいと思います。 ただ、これだけ多い病気ですし、単純な治療法で素人目にはそれほど危険性があるようにも見えないので、電気屋さんで簡単に売られるという時代がくるのではないでしょうか。 今、マッサージ器や筋肉電気パルス治療器などの各種健康器具は、いくらでも街で売られているわけですから。 CPAPと暮らす CPAPは毎日使う物ですので、メンテナンスには気を遣っています。 鼻のまわりを塞ぐ、気密部分は柔らかいプラスチックでできていますが、一晩寝ると、ここにいわゆる鼻の油がべっとりついてしまいますので、毎朝、濡れティッシュで拭くことになります。 また、ポンプからマスクにつなぐパイプも、汗や吐く息で汚れがたまり、カビが生えるということで、毎朝、取り外してつり下げて、水分をとばしています。 割とこういうメンテナンスに気をつけているので、あまりトラブルはありません。 ただ、夏になって、どうにもならない臭気が発生したことがあります。 いわゆる汗のしみついた臭いです。 本体はプラスチックですし、毎日拭いていますので、汗が染みこむということはないので、どうもおかしいとあちこち臭いを嗅いでみてわかりました。 プラスチックのマスクを固定するバンドの部分です。 常時首の裏から頭の裏にはりついているわけですから、汗がしみるはずです。 幸い、水洗いできますので、臭いが気になる前に洗濯するとよいようです。 洗濯するとバンドは劣化しますが、これはある程度、消耗品と考えるべきでしょう。 頭とバンドの間にタオルをはさんで汗をすいとろうともしてみましたが、暑いだけでした。 メンテナンスは私の場合、家内任せになっています。 やはり毎日とりはずして、ホースを干したり、マスクをふいたりは、なかなか自分ではできません。 洗濯も含めて、妻には感謝しております。 一人暮らしの方だと、なかなかこういうメンテナンスが行き届かないのではないでしょうか。 メンテナンスが滞ると、なかなか快適には使えないようなので、マスクへの慣れとともに、CPAP利用の障害となっているようです。 このあたりは、CPAPの小型化も含めて、技術開発に期待したいところです。 加湿器の使用 CPAPを1ケ月使用して、最初の「よく寝られた」という感激の記憶が薄れてみると、いろいろ気になってきます。 マスクの使用感については「よく、そんなものをつけて寝られますね」とか、「息が苦しくないですか」と尋ねられますが、まあ2日で慣れます。 それに基本的に寝ているわけで、その間の使用感はまるで覚えていません。 ただ、鼻からの強制的な吸気になりますので、鼻に障害のある方にはいろいろとトラブルがおこるようです。 これについては、色々対策もあるようなので、気になる方は医師とご相談なさってください。 私の場合、喉が渇く、鼻が乾くというのが、起きた朝の不快感でした。 丁度使い始めた頃、風邪をひいていたこともあったのですが、朝、喉が渇いた感じがして咳がでてなかなかとまりません。 1ケ月目の検診の時にこのことを医師に訴えると、加湿器の使用を勧められ、使用することにしました。 この加湿器は単純に、空気ポンプから出る空気を水のタンクに通して、湿り気をおびさせるものです 直接、水を通るわけではありません。 この水は温めることもでき、冬季、空気が乾燥したり、気温水温が低下するときには威力を発揮するでしょう。 私は使い始めたのが、春だったので、この水温をあげる機能はまだ使っていません。 実際、これを使ってみましたが、水温を上げない限り、それほど劇的な効果は見られないようです。 が、いくらかはましな感じがしますので、使い続けています。 CPAPをつけたままの読書 CPAP装着をはじめて一月ぐらいたったころ、時々装着を忘れるということがありました。 原因は、私の睡眠前にちょっと本を読むという習慣でした。 私、本を読むには眼鏡が必要なのですが、CPAPをつけていると眼鏡がかけられないのです。 で、眼鏡をつけて本を読み、眠たくなったところでCPAPのマスクをとりつけるというわけです。 しかし、当然これは失敗する。 本を読んで眠気がきたときにはCPAPをつけなければと思っている間に夢の中というわけです。 眼鏡をつけたままCPAPのマスクをその上につけることは試みてみましたが、眼鏡の縁がCPAPにあたって、マスクがちょっとうきあがり装着できません。 しからばと、マスクの上から眼鏡をかけてみましたが、これはレンズと眼の間が離れすぎて無理でした。 CPAPのマスクに直接眼鏡が付加できないか、近所の眼鏡屋に相談してみました。 場合によっては、CPAPに装着できる特殊な眼鏡を特注してもいいかなと思っていたぐらいです。 マスクと眼鏡を見せて、特注も覚悟の上と説明していると、さすがに餅は餅屋ですね。 ひとつの既製品の眼鏡をもってきました。 縁が丸くて、しかも両眼の間が離れている眼鏡です。 どうやら眼鏡屋は一目みただけで、マスクの構造と競合しない眼鏡をみつけだしたのです。 特注などまったく考えなくてもOKでした。 かけてみたところがこの通り、問題なく本が読めます。 旅行への携帯 CPAPは毎日使います。 こうした医療器具は一旦使い始めると体の方がそれに慣れてしまうので、CPAPを1日たりとも使わないと言うわけにはいかなくなります。 実際には、1日しないで寝てしまったこともありますし、旅先で1日ぐらいつけなくても、たいしたこともないと思うのですが、医師に質問すると、「旅行にももっていってつけてください」とのこと。 また、旅先というのは環境もかわりますし、深酒することも多いので、睡眠時無呼吸症候群の症状が強くでやすいとも考えられますし、やはりもっていかざるをえないでしょう。 家庭で使うにはたいした大きさでもないし、重さも気になりませんが、いざ旅行に持っていくとなると、CPAPも重くて大きい。 もっとも最近では、キャスターつきの旅行鞄がたくさん売られていますので、CPAPをその中にいれてガラガラ出張に行っています。 飛行機に乗るときは、機内もちこみにせず、預けています。 「医療器具でこわれもの」と、言っておくと「Fragile こわれもの 」の札をつけて丁寧に預かってもらえます。 今のところ壊れていません。 やっかいなのは、海外です。 海外こそ、時差ぼけがあったり睡眠障害がでやすいですから、CPAPをもっていかざるをえません。 移動の問題については国内と一緒で、トランクの中にタオルにくるんでつめこんでしまえば問題ありません。 いつもよりひとまわりかふたまわり大きいトランクがいりますが、トランクを持って歩くということは今ほとんどありませんので、ころころ転がしていけば苦にはなりません。 また私は経験したわけではありませんが、手荷物にすると、保安検査の時にCPAPがあやしまれて、説明に往生するという話も聞きました。 どうしても手荷物にするのなら、英語のパンフレットかなにかをもっていって、説明できるようにしておくべきでしょう。 もちろん、それを完全に説明できる英語力の持ち主は別です。 問題は、電圧とコンセント形状です。 海外の場合、電圧もコンセント形状も日本とは違いますから、日本での使用を前提としたCPAP装置は当然そのままでは使えないのです。 私は、ここでホームページを開いているぐらいで、コンピュータには親しんでいる方で、海外からもモバイル通信をよくしています。 コンピュータの場合、電源装置はたいてい各国の電圧には対応していますので、コンセントだけ注意していればよかったのですが、CPAPは電圧も考慮しなければなりません。 幸い、小さな旅行用の変圧トランスや各国のコンセント形状に対応するアダプターは、電気店や旅行用品店で手にいれることができます。 もっとも実際にホテルに到着して、こうしたセッティングを行うのは結構おっくうです。 一旦セッティングすればそのまま次の日も使えますが、CPAPを抱えて、毎晩ホテルを変わるような旅は難しいでしょう。 それと、トランスとは別に延長コードはもっていった方がいいかもしれません。 CPAPは本体とマスクのホースの長さの関係から枕元においておく必要がありますので、コンセントが遠くにしかなかったりすると、使用できないことになってしまうのです。 先進国なら、たいてい枕元にコンセントはありますが、途上国へ行くような時は要注意でしょう。 いずれにしても、CPAPをもって旅行というのは、やはり困難がともないます。 小型で携帯のしやすいCPAPができればと思うのですが、いまのところ期待できないようです。 医師に相談したところ、旅行の時だけならということで、マウスピースを使う方法を勧められました。 マウスピースは軽度の睡眠時無呼吸症候群の治療につかわれています。 これについては次項。
次のTeschler H, Wessendorf TE, Farhat AA, Konietzko N, Berthon-Jones M. Two months auto-adjusting versus conventional nCPAP for obstructive sleep apnoea syndrome. Eur Respir J. 2000 Jun; 15 6 :990-5• Hukins C. Comparative study of autotitrating and fixed-pressure CPAP in the home: a randomized, single-blind crossover trial. Sleep. 2004 Dec 15;27 8 :1512-7. 上記はResMed Australiaによる企業参加研究です。 ヒューキンズ博士はResMed Australiaより研究装置の提供を受けました。 Massie CA, McArdle N, Hart RW, Schmidt-Nowara WW, Lankford A, Hudgel DW, Gordon N, Douglas NJ. Comparison between automatic and fixed positive airway pressure therapy in the home. Am J Respir Crit Care Med. 2003 Jan 1;167 1 :20-3. ResMed Corporationの研究助成金による。
次の睡眠時無呼吸症候群(SAS)は現代の国民病ともいわれる。 SASは長期間未治療の場合、虚血性心疾患などさまざまな生活習慣病の危険因子となるが、患者の顕在化が進んでいないことが大きな課題となっている。 連載第9回では、SASの早期発見・早期治療の重要性から持続陽圧呼吸療法(CPAP)を提供しているクリニックの実例を紹介し、かかりつけ医がSAS診療に取り組む意義と効果について考える。 新幹線の走行中に運転手が約8分間も居眠りをしており、オーバーラン後に急停車した。 後日、運転手は重症 SASと診断され、大惨事を招く可能性があったとして問題化した。 SASの脅威は睡眠不足による意識障害にとどまらない。 さまざまな生活習慣病の危険因子として作用することが知られており、早期診断・治療が重要になる。 SASの患者数は人口の5~10%と推計されているが、最も有効な治療法であるCPAPを実施しているのはわずか50万人程度。 こうした状況を踏まえ、地域のかかりつけ医として2016年の開業時からSAS診療に取り組んでいるのが、東京・中野区にあるいたや内科クリニックの板谷英毅院長だ。 CPAPが治療の第一選択肢 循環器専門医としてキャリアを積んできた板谷さんがSAS診療に取り組み始めたのは、勤務医時代に日本循環器学会が「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(GL)」を策定したことがきっかけだった。 GLは心不全のSAS合併率は76%に及ぶと指摘。 心不全患者へのSASスクリーニングが推奨され、狭心症や心筋梗塞、不整脈など多くの循環器疾患でもSAS加療が推奨された。 GLを踏まえ板谷さんは、心不全での入院の回避や血圧コントロールのために、CPAPの提供を始めたという。 「SASの治療は主にマウスピースかCPAPの2種類です。 診療報酬の算定要件(別掲)を満たす必要はありますが、現状でCPAPほど効果がある治療法はありません。 CPAPは糖尿病のコントロールにも有効です。 「難治性高血圧症の患者さんの血圧コントロールがCPAPで改善し、薬剤数を減らすことができた症例も多数経験しています」 メーカーのサポート体制がカギ 板谷さんが導入しているのは、帝人ファーマの医療機器販売会社である帝人在宅医療のSAS診療トータルサポート()。 CPAP機器(表)で主に使用しているのは「スリープメイト R10」だ。 従来のオートセットモードに加えて、新たに2つのアルゴリズムを搭載した主力モデルで、夜間の高圧による覚醒やレム期のイベントを防ぐために圧変動が穏やか、という特徴がある。 このほか旅行や出張先などニーズの多様化に対応した「スリープメイト RAirMini」という機種もある。 専用アプリで操作を行うため、本体は非常にコンパクトながら高機能だ。 板谷さんは帝人在宅医療のCPAPを導入した理由についてこう語る。 「最も重視したのはバックアップ体制です。 CPAPは機器をレンタルするシステムで、患者さんのサポートはメーカーにお願いすることになります。 CPAPは対症療法なので、治療を継続することが大切です。 帝人さんのカスタマーセンターは365日体制で、扱いからメンテナンス、トラブル発生時まで丁寧に対応してくれるので、医療機関は診療に集中することができます」 自宅配送サービスで簡易検査が可能に 帝人在宅医療のトータルサポートでは、在宅で可能な簡易診断については検査機器自宅配送サービスがあり、レポート作成も行う。 データ管理は「ネムリンク」というネットワークシステムを用いて行う仕組みになっている。 データ管理に加え、外来指導ポイントの表示や患者向けレポート作成など診療サポート機能も充実。 ネムリンクでは複数医療機関によるデータ共有が可能で、医療連携にも活用できる。 SAS診療は患者との信頼関係を強くする 板谷さんは現在約30人にCPAPを実施しているが、SAS診療では患者の顕在化が重要と指摘する。 「自覚症状がなくても高血圧や糖尿病のコントロールが難しい患者さん、メタボの人はSASを疑う必要があります。 臨床症状とSpO 2とのバランスも重要です。 SAS合併の生活習慣病では症状がなくても低酸素になることがあるため、積極的に検査を勧めるべきでしょう」 CPAPは1998年に保険適用となったが一般の開業医への普及はそれほど進んでいない。 しかし板谷さんは「SASはもはやCommon disease」と強調する。 「一般内科医の先生には『難しい』『面倒くさい』という印象があるかもしれませんが、SAS診療のシステムは進化していて、検査もデータ管理も難しくありません。 一部の専門的疾患を除いてSASの治療を受けるためだけに病院や睡眠専門クリニックに通院するのは患者さんにとって大きな負担となり、治療を止めてしまう要因にもなります。 SAS診療には、かかりつけ医と患者さんの信頼関係をより強いものにしてくれる効果があると実感しています」.
次の